ブログ主は時価加重平均型のインデックス投資メインですが、日米個別株ETFも運用している雑食系です。日本株は株主優待銘柄を多数保有していますが、主力のインデックス投資の側では優待は貰えないため、無駄ではないか廃止して配当に回したほうが、全員に平等ではないかと常々思っていました。今回、この問題について取り上げます。
株主優待にかかるコスト
1,000円程度の調味料や食品などを自宅まで宅配してもらい、申し訳なく思いつつ、毎年うれしいです。しかし、配送料も中身と同程度かかりコストは大丈夫なのか。例えば、個人向け優待のパイオニアとされるカゴメなど凄まじい数の個人株主が存在するため、持続可能なのか常々疑問に思っていました。
結果は、大丈夫でした。今回、拝読した株主優待制度について調査した研究論文によると、以下の通りであり、広告宣伝や株主数維持の効果を踏まえると、企業側にも一定の効果は認められると結論づけられています。
今回のサーベイ調査では株主優待に係る平均費用は総配当額の 8 %程度,中央値では 3 %に満たないことが明らかになった。また株主優待にかかる費用は交際費として損金不算入されているケースがもっとも多く,財務報告上は広告宣伝費やその他販売管理費,または複数の項目に渡って計上されていることも多くあることが確認された。
公益財団法人経済研究所 証券経済研究 第104号(2018年12月)日本企業における株主優待実務の実態:サーベイ調査から引用
株主優待は、最低単元保有の個人でみると、配当利回りと優待利回りが同じレベルのことも多く、コストは巨大と思いこんでいました。しかし、内容や規模によりけりな面は否定できないものの、全体に占めるコストは一般に微小で、本当にこの程度であれば、インデックス投資家や外国人投資家にとって著しく不利になるほどのものではなさそうです。
東証市場の再編で、上場維持要件が変更されたため、今後株主優待は減少していく可能性は否定できませんが、ひとまずは安心しました。
外部リンク:公益財団法人経済研究所 証券経済研究 第104号(2018年12月)日本企業における株主優待実務の実態:サーベイ調査から
海外の株主優待制度
株主優待は日本独自の制度でガラパゴスとよく言われますが、少数ながら優待制度は存在しています。英語では、Shareholders(株主) perks(特典),benefits(優待),rewards(謝礼)と呼ばれていました。
アメリカの株主優待制度
以下のThe College Investorという投資家向け情報サイトのコラムに、2023年4月の優待実施企業が整理されていました。日本でも知名度があるところでは、バフェット氏のバークシャーハザウェーの株主総会で傘下企業のお菓子などが割引価格で購入できる。フォードは、従業員価格で車が購入できるなどの紹介があります。
しかし、フォードは表立って案内されていないからIRに問い合わせが必要など、全体として縮小傾向は明確とのこと。
たまたまみつけたコラムですが、個人はETFで投資することが一般的になり、どの会社に投資しているかすら知らないケースが大半のため、株主優待は今日的ではない。でも、数少ない残っている優待企業が魅力的なら、制度が続く限りは、特典を享受すべきと結論づけていました。
外部リンク:The College Investor Companies That Give Shareholders Perks And Rewards
イギリスの株主優待制度
イギリスでは、アメリカよりは数が多い印象です。同じくたまたま見つけた下記のコラムでは、株主総会のお土産から自社販売品の割引購入、クルーズ旅行の特典など日本と同じようにバラエテイーに富んでいて、費用対効果を勘案して有効活用しようといった紹介がなされていました。
ただ、日本のように多くの会社で実施されているようではなさそうです。
外部リンク:Share Club British Companies That Offer Shareholder Benefits in 2023
その他の問題
株主優待の法律上の問題
株主優待は、会社法に規定される株主の権利ではなく、会社が会社の判断で、任意に実施するものです。その内容は、株主総会の決議事項ではなく取締役会の承認で決定されます。
株式投資は純然たる経済行為であるため、政治の選挙でにおける一人一票ではなく、原則として株式数に応じて平等に扱います(株主平等の原則・会社法109条1項)。
株主優待は、例えば100株保有で、自社製品1,000円とすると、100株所有者も、10,000株所有者も1,000円となるため、大口所有者に逆不平等ではないか問題なります。また、その他製品であるため、現物配当の逸脱とならないか(同454条4 項)、株主の権利行使に関する利益供与にならないか(会社法120条)も論点として存在します。
これらは、諸説ありますが、社会通念上相当な範囲で、軽微であれば問題ないとして、実務上も運営されています。
株主優待の会計上の問題
株主優待も自社製品から、クオカード、お食事券など多種多様です。会計上の処理も明文化はされていません。配当としての剰余金の処理か、費用か問題になりますが、株主の権利ではなく、会社が任意に実施している法的性質を踏まえ、会社側は費用として処理し、受け取る株主は、配当ではなく雑所得して扱われているのが実態です。
上記研究論文によると、交際費がもっとも多く、その他販売管理費,広告宣伝費,売上値引,売上高控除と企業により様々とのことで、しかも複数の費目に分かれて計上されていることが多いとのこと。
ブログ主は、何度か、決算書などから株主優待にどれだけ費用がかかっているか調べようと試みたのですが、素人には手に負えず断念したことがあります。今回、事情がわかり勉強になりました。
最後に
少なくとも、日本の株主優待制度は、異常なコスト高のものではないこと、株式市場の世界シェア1,3,4位のアメリカ、日本、イギリスで未だに株主優待制度が存在し、認知されている以上、日本だけガラバゴスで、内にこもっているとまでは言い切れないと思われます。無論、断片的な情報で結論づけるのは危険ではありますが。
一方で、個人は、投資信託・ETFで投資することが、ますます一般的になり、今後も拡大していくことは事実でしょうから、企業カバナンスのあり方が時代に合わせて変容していくように、株主優待制度も縮小していく運命にあることは間違いなさそうです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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