finaseeに面白い記事が掲載されていました。eMAXIS Slimと無印俗称Fatの比較からインデックス投信のコストを考察した内容です。
記事概要
外部リンク:finasee 「eMAXIS Slim」と「eMAXIS」は何が違う? 両者の成績を比べて見える“インデックスファンド”にとって「大事なこと」
1. つみたてNISAにより、投資対象となりやすいインデックスファンドが増えた。
2. 2024年春から投資信託のコストの総額表示が義務付けられた。
3. インデックスファンドで低コストを打ち出したマーケティングは無意味。
記事は、上記3点の解説となっています。途中まで無難な内容ですが、最後の結論が不可思議。アクティブファンドの低コスト化に肯定的にもかかわらず、インデックスファンドの低コスト化に否定的な結論となっています。なぜこのような解せない結論となるのか個別に確認したいと思います。
記事の疑問点
Slimが付いているのと、付いていないのとで、何が違うのでしょうか。
まず信託報酬率が違います。「eMAXIS Slim(オール・カントリー)」が年0.120%から段階的に引き下げられて、現在は年0.05775%であるのに対し、「eMAXIS(オール・カントリー)」のそれは年0.66%です(2024年5月17日時点)。
出典:finasee 「eMAXIS Slim」と「eMAXIS」は何が違う? 両者の成績を比べて見える“インデックスファンド”にとって「大事なこと」
ここまでは、そのとおりですね。当ブログでも度々一物二価はいかがなものかと取り上げています。公式でも、「eMAXIS」と『eMAXIS Slim』の誤認購入に関するご注意について と丁寧に注意喚起されています。
しかし、この後から、雲行きが怪しくなっていきます。
信託報酬の差は僅かか?
同日の基準価額を100として計算すると、eMAXISが2024年3月末時点で237.65。対してeMAXIS Slimは240.97でした。5年と5カ月の運用期間でわずか3.32の差は、あってないようなものでしょう。
これはある意味、正しいことです。両ファンドにとって大事なことは、連動目標である指数に対して高い連動率を保つことなので、両者の運用成績に差が開かないのは、インデックスファンドとして正しい付加価値を提供していることになります。
finasee 「eMAXIS Slim」と「eMAXIS」は何が違う? 両者の成績を比べて見える“インデックスファンド”にとって「大事なこと」
対象指数に対して高い連動率を保つことが大切なのは言わずもがなですが、3.32の差は「あってないようなもの」は本当でしょうか。
3.32%/5年5ヶ月=0.603%/年です。両者の信託報酬の差は、0.66%-0.05775%=約0.602%/年ゆえ、しっかり信託報酬分の差が反映されています。
投資金額 | 1年あたり | 1ヶ月あたり | 5年5ヶ月 |
10万円 | 603円 | 50円 | 3,320円 |
100万円 | 6,030円 | 502円 | 33,200円 |
1,000万円 | 60,300円 | 5,020円 | 332,000円 |
具体的な金額でみると「随分と差がある」と結論づけるのが自然ではないでしょうか。
ベンチマークは異なる
eMAXIS全世界株は、MSCI ACWI(除く日本)に対して、eMAXIS Slim全世界は、日本を含むMSCI ACWIです。おおもとのベンチマークが異なるので、そもそも、比較対象として適切ではありません。
両者は、同じ運用会社内で、ファミリーファンド方式で運用されているため、重複する範囲でマザーファンドは、同一です。違いは、数%の日本株が含まれているか否かです。
指数に対する連動率がほぼ同じなのは、信託報酬の差ではなく、マザーファンドがほぼ同一だからです。
異なる運用会社間の商品比較ならまだしも、同一運用会社内で同一のマザーファンドの商品を比較して指数との乖離率云々は全く意味がないです。そもそも、ベンチマークも違いますし。
結論先にありき?
結局、インデックスファンドの信託報酬の低コストを否定したいがため、ちぐはぐな理由付けがなされていると言わざるを得ません。
対象指数が同一で、乖離率が同じであれば、インデックスファンドでもコストが低い方が、消費者の側にとっては有利なことは明らかな事実です。
にもかかわらず、「インデックスファンドにも当てはめてマーケティングを行っているところに、今の投資信託市場の不健全さがあるように思えます。」と結論付けている理由は、少しでも高い信託報酬のインデックスファンドを売りたい側に立たれているとしか考えられません。
高い信託報酬が正当化されるのであれば、トンデモ理論を振りかざすのではなく、正面から対価に見合う価値提供はどこにあるのかアピールすればいいのにと心から思います。
やはり、この業界は危険に溢れています。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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